【テニス関係裁判例紹介】CAS OG 20/05 Oksana Kalashinikova & Ekaterine Gorgodze v. ITF,GNOC,GTF

こんばんは。
すでにパラリンピックも始まっていますが、東京2020大会、皆様どのように楽しまれているでしょうか。
オリパラ大会の期間中(厳密には期間中+α)の、オリパラ大会に関するスポーツ紛争の迅速な解決のため、スポーツ仲裁裁判所(CAS)がアドホックディヴィジョンという特別部を設置します。大会への出場資格などが争われた場合、スポーツ仲裁裁判所の仲裁人が迅速に判断を行います。
テニスの東京2020大会オリンピックゲームでも、一つ紛争がありました。
今日はこれを紹介します。
ジョージアの女子ダブルスの事例です。
原決定はこちら

【事案の概要】
申立人らはジョージアのテニス選手であり、ダブルスのペアです。
ITFの定めるOlympicQualificationSystemによれば、オリンピックの女子ダブルス競技に出場できる資格は選手(ペア)個人に与えられ、2021年6月14日付けの世界ランキングに基づいて決められます。
申立人らは、同日付け世界ランキングに基づいて作られる出場資格者のリストに載っていませんでした。同リストは同年7月1日にリリースされますが、その後出場を辞退する選手などがでてくるため、リストは順次改定されます。その後ITFは、同月16日、改訂版のリストを公開しました(これが申立の対象となる決定です)。同リストには、申立人らのランキングより下位のペア(利害関係人ら)が載っていましたが、申立人らは載っていませんでした。
そこで、申立人らは、原決定についてITFに問い合わせました。すると、ITFの回答は、GTF(ジョージアテニス連盟)ないしGNOC(ジョージアオリンピック委員会)からエントリーの手続が行われていないという回答でした。しかし、申立人らは、同年6月22日にGTFにエントリーを確認し、また、原決定後であるが7月17日にGNOCにエントリーを確認して、いずれもエントリー手続を行ったという回答を得ていました。
申立人らは、東京オリンピックの女子ダブルス・テニス競技に出場する資格の確認や、その他の救済を求め、スポーツ仲裁裁判所アドホック部に提訴しました。
 

ここで若干の解説をしますと、オリンピックにおけるテニス競技では、国の代表の資格はランキングに基づいて選手個人に与えられます。
しかし、ランキングに沿って自動的に出場できるわけではありません。当然、エントリーの手続が必要です。
オリンピックゲームにおいては、代表選手のエントリーの手続をするのはNOCです。選手個人ではありません。
(このあたりのことは、こちらの記事にも書きました)
この手続に則ってエントリーが行われていないと、いくらランキングが高くても大会に出場することはできません。
本件においては、ランキング的に申立人が出場圏内にいたことは間違いがなさそうなのですが・・・・

【仲裁判断の概要】
結論:請求棄却。
オリンピック憲章は次のように規定している。「NOC は、各国の連盟が提出した出場推薦書に基づいてのみ競技者を出場させる・・・」(OC44.1)「国内オリンピック委員会(NOC)は「オリンピック憲章に準拠して、競技者、チーム役員、その他のチーム要員をオリンピック大会に派遣する」独占的権利を有する(OC27.7.2)。しかし、本件ではGNOCがITFにエントリーの手続を行ったという証拠はなく、手続がなされていないことは明白である。
申立人らの参加に必要な条件が欠けているのであれば、ITFが改訂版のエントリーリストを採用したことは何の誤りもない。
ITF は国内オリンピック委員会の失敗に責任を負うことはできない。
なお、パネルはこの後の段階で、ITF に対し女子ダブルスに1枠追加するよう救済措置を命じることは不可能であると判断する。このような措置は(大会開始の 2 日前に大きな現実的な障害に直面することに加えて)、この点について裁量権を持ち、この仲裁の当事者ではない IOC にも関わることになる。
最後に、申立人らは禁反言の原則または自然的正義に照らし、申立人らに出場資格を認めるべきであると主張する。しかし、まず前者については、パネルは申立人らが不利益を被るような ITF の宣言または行為を認めない。後者については、東京OGにすでに参加している他のすべての参加者の期待を考慮する必要性に言及したい。申立人らの参加は、すでに東京OGに適切に参加している他の選手に不利益をもたらす。公平性のためには、彼女らの期待も尊重されるべきである。
よって、パネルは、本件申立を棄却するよりほかない。

判決文しか参照していませんし、短い時間で限られた証拠の中真実を語る資格は私にはありませんが・・・おそらく判決文から推察されるのは、大変気の毒なことにGTFまたはGNOCがエントリーの手続をミスったということのように思われます。
テニスはオリンピックに出場可能でも欠場の判断をする選手が多い競技なので、大会直前にめまぐるしくリストが改訂されます。1国4名ルールもあるので、ドローサイズからしても結構下位のランキングの選手にまでチャンスが回ってきたりします。そんなときにエントリーの手続がなされていなかったら・・・どこにどんなエラーがあったのかわかりませんが、取り返しのつかない結果になってしまいました。
決定文の中でも「気の毒なことに」という意味の表現が使われていました。しかし、他の選手との関係もありますし、決まりは決まりですから、なかなか救済は難しいという結論なのでしょう。(大丈夫だとは思いますが)我が国では起こらないでほしいエラーです。


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