弁護士 山本衛 On Court

アスリートの肖像権とパブリシティ権

久しぶりの投稿です。
今日のテーマは肖像権とパブリシティ権です。

「肖像権」という言葉は、一般的にも耳にしたことのある方が多いと思います。
写真を勝手に撮られた、使われた、そういう場面を思い浮かべる方が多いと思います。
一方で、「パブリシティ権」という言葉は、あまり聞いたことがない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

まず肖像権とは,人の氏名、肖像等をみだりに利用されない(撮影されない、使用されない)権利をいいます。
たとえば,見られたくない姿をひそかに写真撮影され、写真をインターネットに勝手にアップされて誹謗中傷するなどの事例を思い浮かべるとわかりやすいと思います。
これは,人格権,つまり個々人の人格的利益を保護する権利に由来する権利で、誰にでも一般的に認められる権利です。
近時、(女性)アスリートに対する盗撮・性的目的を推認させる写真撮影や、競技中の画像を性的文脈でSNS等にアップする行為が問題となっています。こうした写真撮影や写真利用は、被写体となった者の肖像権を侵害し、違法となる可能性が十分にあると思います。
上に書いたとおり、こうした意味での肖像権は誰にでも一般的に認められる権利ですから、この対象がプロアスリートなのか、アマチュアなのか、学生アスリートなのかなどに関わらず、違法となりえます。
肖像権が侵害されているかどうかは,その肖像等の利用が受忍限度を超えているかどうかという一般的な基準で判断されるという考え方が主流です。写真の構図、撮影場所、その用いられ方などを個別具体的に考慮して、違法かどうかが決められることになろうと思われます。

一方で,「パブリシティ権」は、肖像などがもつ,商品の販売等を促進する顧客吸引力を利用する権利をいいます。
たとえば,一般人の写真集は売れないと思いますが、有名プロスポーツ選手の写真集は売ることができます。このように、著名人にはその肖像を用いて経済的利益を生み出す力があります。これを、「パブリシティ権」といいます。
これも,上で見た肖像権と同じく人格権に由来する権利であると整理されていますが,人格的利益のうち,その人の経済的利益のための権利であると理解できます。
この権利は,個人に顧客吸引力が認められて初めて成立する権利です。さきほどの例からもわかるとおり,著明でない一般人には認められない権利で、有名プロスポーツ選手のような顧客誘引力を持つ限られた人々のみがもつ権利であるということができます。こうした意味での肖像の力も、「肖像権」の用語が使われることがあります。したがって、「肖像権」の用語が「パブリシティ権」の場合を意味している場合があるので、厳密には区別が必要です。
さて、そういう権利が認められる場合があるとすると、やはり著名人の写真などを勝手に使うのはまずいということになりそうです。ただ、すべてダメなのでしょうか。単なる私用や、その人物の論評などにも用いることができないのでしょうか。
これに関しては「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に不法行為が成立しうるとした有名な最高裁判所の判例があります。この判例は、そのような場合の例を挙げており、
 1,肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
 2,商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
 3,肖像等を商品等の広告として使用する場面
です。1は例えば写真自体を売る場合、2はグッズを作るような場合、3は広告に肖像を使うという場合をイメージするとわかりやすいです。こうした場合には、勝手に写真などを利用すると違法になる可能性があります。
どうしてこのように限定的な要件が付されているのかというと、この判例は、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等の論評などの利用は正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるからだと述べています。やはり、表現の自由はそれはそれで重要なので、バランスが必要なのでしょう。
(なお、同様の理屈で、サインや、音声などもこうした権利の保護の対象になりえます)

肖像の価値は目に見えないものなので、ついついそこに権利があることを忘れてしまいがちですが、れっきとした個々人の人格に基づく法的権利なので、十分尊重する社会であってほしいと思います。

※なお、本稿で記載した肖像権の視点のほか、写真には、その被写体の権利とは別に、撮影者の著作権がありますのでこれも注意が必要となります。

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