弁護士という仕事について,いろいろ誤解されることがあります。
ありがちな誤解が,「六法全部覚えているんですか」というものです。もっとすごいと「法律全部頭の中に入っているんですか」と聞かれることもあります。
・・・覚えていません(笑)
もちろん,実務上よく使う条文や,司法試験受験時代に何千回と目にした条文は覚えているものもたくさんあります。
ですが,法律というのはあまりもたくさんありますので,とてもではありませんが全部を暗記することなど不可能なのです。
したがって,私たち弁護士がご依頼を受ける際にも,問題となる法律の条文自体を知らないということもあります。条文自体は目にしたことがあっても,その解釈,適用についてすぐにはわからない,ということも珍しくありません。
しかし,ここからが法律家の腕の見せ所なのです。法律家は,司法試験を通じて,少なくとも憲法,民法,刑法,商法,民事訴訟法,刑事訴訟法,行政法の知識を身に着けています。これらの法分野は,きわめて基本的な法分野で,これらを身に着けていれば,未知の法律を目にしたとしても,その法律がどのように適用されるかを判断することができます。
たとえば,罰則のある各種法律の適用は,刑法や刑事訴訟法の知識があれば基本的に理解することができます。民事的な権利関係を定める法律も,民法や民事訴訟法を理解していれば何を意味するかをすぐに理解できます。一般社団法人法などの特別法も,商法における会社の設立・運用などの知識があれば,すぐに理解することができます。
僕は,基本的な法律を他の法律に応用する能力は,法律家の専門的な能力の一つであると思っています。
一つ一つの基本的な法律には,さらにその根底にある理念や考え方があります。こうした基本的な法律や,その根底にある理念にさかのぼって法律を使えるかが,法律家の能力を少なからず左右していると思います。