このサイトでは、テニス関係の裁判例の紹介をしたいと思います。
今回は、テニスコートの新設工事に関する紛争です(東京地方裁判所平成27年2月27日判決 LLI/DB 判例秘書登載)。
【事案の概要】
原告は土木工事の請負などを目的とする会社、被告はテニススクールの経営者でした。
原告は、テニスコートを完成させて引き渡したにもかかわらず被告が請負代金を払わないとして、訴えを起こしました。
この事件の争点は多岐にわたっていますが、原告が工事して被告に引き渡したコートで極端なイレギュラーバウンドが多発していたか否かという点が争点の一つになりました。そして、イレギュラーバウンドが発生しているということが、契約上、コートに問題があった(法律用語では「瑕疵」といいます)といえるか否かも争われました。
原告は、そもそも極端なイレギュラーバウンドが多発している事実はない、通常の性能を備えたコートを作って提供しているので瑕疵はない、といった主張をしていました。
【裁判所の判断】
裁判所は、裁判を提起した時点でコートが既に取り壊されており、コートの平坦性及びイレギュラーバウンドの程度を具体的に認めることのできる客観的な証拠はない、としつつも、コートの引き渡しを受けた後に被告が苦情を申し入れを受けていたことや、この申し入れを受けて補修工事を実施したり、書面で被告に謝罪をして補修の申し入れをしていることなどから、頻繁にイレギュラーバウンドが発生するような状況であったと認めました。
そのうえで、コートの平坦性を確保することは契約において前提とされており、イレギュラーバウンドが頻繁に起こるような状態であった以上は、コートには瑕疵があったというべきであると結論付けました。
イレギュラーバウンドが頻発するコートには瑕疵があると判断した裁判所の結論は、まっとうな判断だといえると思います。
テニスをプレーする人であれば、ラリーがいかに地面の細かな状態に影響を受けるものであるか、そしてイレギュラーがいかに煩わしいものであるかを理解できるでしょう。被告はテニススクールの経営者ということですが、イレギュラーが頻発するようなコートでスクール経営をしようとすれば、スクール自体の経営に大きな影響を与えそうです。コートサーフェスやイレギュラーの程度にもよるかもしれませんが、新品のコートでイレギュラーが頻発するようでは、テニスコートとしての基本的な性能を欠いているといわれても仕方がないでしょう。
ただ「イレギュラーバウンドが頻発する」ということを裁判で立証するのは、そう簡単なことではないと思います。
どれくらいの頻度で、どのくらいの程度のイレギュラーが起こるのかを客観的に証明することは簡単ではありません。
コートの平坦性を何らかの方法で調査することはできそうですが、イレギュラーの原因は地面の平坦性の欠如だけではないこともあります。コートサーフェスによっても異なるでしょう。
この事件では、すでにコートが取り壊されていたという事情もあり、さらに立証は困難だったと思われます。
ただ、被告であるテニススクール経営者が、イレギュラーの頻発に気付いた時に適切に施工業者である原告に抗議し、その後も施工業者との間でイレギュラーの問題について継続的に話し合おうとしていたことが、「実際にイレギュラーがあった」と裁判所が判断できる一つの根拠とされています。
こうした問題に直面した場合には、問題について指摘し、きちんと対応策を講じておくことが、後々紛争になった時にも重要だといえます。
※ この裁判例は、あくまで当該事例に固有の判断ですので、他の事例に適応できる法規範性を持っていません。
もし類似の具体的な問題を抱えている方がいらっしゃいましたら、弁護士に直接ご相談ください。