弁護士 山本衛 On Court

スポーツ中の行為と刑事事件

 スポーツ中の行為も、刑事事件と無関係ではありません。
 法律では、人に暴行を加えれば暴行罪、怪我をさせれば傷害罪が成立します(※1)。
 しかし、当たり前ですが、柔道で人を投げたり、ラグビーで相手選手にタックルすることは罪にはなりません。
 形式的には暴行に見えますが、「正当(業務)行為」として違法性がない、ということになるのです。

 反対にいえば、スポーツ中の正当な行為だといえないような逸脱した行為については、違法性が生じてくる場合があります。
 乱闘行為や、プレーとは関係のない暴力行為などはわかりやすいですね。
 でも、この境目は意外にもあいまいです。
 いくつかの例を考えてみましょう。
 ボクシングで「肘でもいいから目を狙え」というのはどうでしょうか。
 これは、プレー中とはいえ、許されなさそうですかね。
 サッカーで「ファールでもいいから止めろ」はどうでしょうか。
 反則行為を前提にしているようですが、よく聞かれるように思います。
 コンタクトのないテニスも無関係ではありません。
 「ぶつけてもいいから相手の体めがけて思い切り打て」というのはどうでしょうか。
 ネットに出てきた相手に対するストローク側のショットチョイスの一つですが、相手がけがをする可能性は当然あります。
 結局、どこまでの範囲が「正当」だといえるのかは、すぐに明らかにはなりません。
 これは、法律で決まるわけではなく、むしろ常識で決まる判断です。
 おそらく、競技の性質(コンタクトスポーツか否かなど)、当該行為の危険性の程度、戦術上の普遍性(その競技において有効な戦術として認識されているかなど)、当該行為が行われた際のプレーの状況、行為者の意図などが総合的に考慮されて、社会常識的に許されるものかが決まることになるでしょう。上で挙げた例一つ一つについても、人によって評価は変わってくるかもしれません。

 なお、仮に暴行罪や傷害罪に該当するとなっても、スポーツのルールの中での罰則も当然ありますから、基本的にはスポーツのルールの中で解決されることがほとんどです。したがって、よほど悪質な事情がない限り、刑事事件として捜査機関や裁判所に取り上げられることはあまりないと考えていいものと思われます。

(※1)ほかに、過失によるスポーツ中の事故について、業務上過失致死傷罪などが成立する場合があります。
実際に裁判になった例などもありますが、別の複雑な問題があるのでここでは割愛します。
また機会があれば取り上げたいと思います。

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