弁護士 山本衛 On Court

ルール その2

世の中にはたくさんのルールがあります。
時に、ルールは、「~してよい」という形をとることもあります。
先日は、「~してはいけない」ルールについてお話ししましたが、逆のルールについて思うところをお話ししたいと思います。

本来的に、人は自由です。
近代国家において、人は、自由な個人であることが想定されています。
国家によって生かされているわけではありません。
ルールによって生かされているわけでもありません。
ですから、いちいち「~してよい」なんて言われなくても、そんなおせっかいをいわれなくても、人は基本的に自由なのです。
(ルールが世界を作っているスポーツやゲームは違いますが)

では、そういう世界の中で「~してよい」というルールの存在意義は何なのか。
私は、そのようなルールが意味を持つためには、「~してもとやかく言われない」「~しても不利益を受けない」という意味を持たなければならないと思っています。

刑事事件のルールを定めた刑事訴訟法には、「黙秘権」という権利が定められています。
黙秘権の意義や正当性、重要性についてここで述べることはしません。
この権利は、簡単にいえば、「取調べや、裁判で、黙っていてよい」というルールです。
しかし、これを文字通りに考えれば、これはあまりにも当然です。人の口に手を突っ込んでも言葉は出てきませんから、黙りたかったら、本人が黙ればいいのです。「黙っていてよい」などと言われなくても、黙ることは少なくとも物理的には可能です。

ですから、「黙っていてよい」というルールは、「黙っていてもとやかくいわれない」「黙っていることによって不利益を受けない」という意味を持たなければなりません。

しかし、現実の事件では、それとは異なった扱いを受けることがあります。
捜査機関は、取調べのはじめに「取り調べでは、黙っていてもいい」と告知しなければならないと決められています。実際、告知は行われます。しかし、多くの捜査官は、そう言った舌の根も乾かぬうちに、「黙秘していると不利になるぞ」「黙っていると反省が見えないから重い刑になる」などとまくし立てます。黙っていることに、とやかく言い続けます。不利益になりかねないと示唆します。
私はしばしば黙秘権の行使を防御戦術として選択します。そのような場合、捜査機関が黙秘に対して上のような圧力をかけてこなかったことは、たったの一度もありません。

しかし、本当に黙秘権の行使が不利益を招いたと感じたことも、たったの一度もありません。
捜査機関の圧力は、けっきょく、多くの場合、脅しあるいは虚言です。
黙秘権を行使している被疑者を怒鳴りつけている間に、ほかの客観的な証拠を集めたり、証明の方法を考えることに時間を使ったほうがいいと思います。
そうしなければ、真犯人をどんどん逃がしてしまうかもしれない。
そうしなければ、本当は犯人でない被疑者が屈服し、冤罪が生まれてしまうかもしれない。

ルールですから、そのルールがあることによって不都合な当事者も、そのルールを尊重しなければならないはずです。
「~してよい」というルールが、「~してもとやかく言われない」「~しても不利益を受けない」という意味を持ち続けられるように、明日も接見に行きます。

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